ハワイ・ホットスポット火山の形成と進化についての研究

 太平洋プレート中に独立して存在し,過去 >7000万年という長期間にわたって火山活動が続くハワイホットスポットは,マントルプルームの研究に最も適した場所の一つです.ハワイホットスポットの火山活動の全体像を知るためには,火山体の大部分を構成する海底溶岩の情報を含めた解析が不可欠ですが,採取が困難なことから海底溶岩についてのデータは十分に得られていませんでした.そこで,本研究室では,1999-2007年にJAMSTEC(海洋研究開発機構)やハワイ大のクルーズで採取された海底溶岩を対象として(図1),ハワイ火山の活動史,ハワイプルームの地球化学的構造を明らかにするために, K-Ar年代測定や同位体組成分析をおこなっています.

 

(図1.ハワイ火山列と海底地形図,試料の採取場所)

 ハワイ火山の活動史やプルームの地球化学的構造を明らかにする上では,信頼性の高い時間軸情報が不可欠です.ハワイ火山列では,北西に位置する火山ほど火山体の年代が古いことがわかっていますが,海底溶岩については採取の困難さに加え,海水による試料の変質,斑晶や急冷ガラス等に保持されたマントル由来の過剰40Arなどが問題となり,信頼性の高い年代データが得られていませんでした.そこで,コオラウ火山マカプセクションの溶岩を用いてK-Ar法を適用できる試料の変質程度について評価し,ガラス部分等を除いた新鮮な石基部分のみ,また従来よりも細かい試料サイズを分析に用いるなど前処理を改良して海底溶岩のK-Ar年代測定を進めています.

 これまでの研究では,海底で始まるハワイ火山の盾状期の継続時間と火山列の年代推移を明らかにするために,コオラウ火山沖とミドルバンク海山から採取された試料の年代測定をおこないました.分析の結果得られたコオラウ海底溶岩の3.3 ? 2.9 Maという年代と,以前本研究室で陸上溶岩の分析により明らかになった盾状期の終わりの年代(約2.4 Ma; Ozawa et al., 2005)とを併せると,その継続時間は50-90万年であったと考えられます.この結果は約70万年とするモデル計算からの推定にほぼ一致し,数十kmと見積もられてきたプルームの直径を知るためにも重要な結果です.また,2007年に初めて調査されたミドルバンク海山溶岩のK-Ar年代は6.2 ? 6.1 Maという結果で,ハワイ火山列の年代推移から予想される主要な火山活動の年代に一致しました.試料がアルカリ溶岩であることから,6.2 ? 6.1 Maという年代はミドルバンクの後盾状期もしくは前盾状期を示す可能性があります.

 また,近年の深海調査でカウアイ沖海底に無数の火山円錐丘が分布することが明らかになり,その活動時期を決定するためにK-Ar年代測定をおこなっています.これまでの測定の結果,これら火山円錐丘から採取されたソレアイト溶岩,アルカリ溶岩についてそれぞれ4.8 ? 3.9 Ma1.9 ? 0.2 Maという年代値が得られました.これらの年代はそれぞれカウアイ陸上溶岩の盾状期と再生期に一致し(図2),特に2試料については0.2 ? 0.3 Maというカウアイ陸上でも一部の地域にしか見られない非常に若い年代を示しました.この結果からホットスポット中心から500 km以上も離れた地域で,海底でも活発な火山活動が起こっていることがわかりました.

 

(図2.カウアイ陸上,海底溶岩のK-Ar年代(陸上溶岩についてはSano (2006)より))

 

 ハワイの火山活動において最も活発な盾状期に噴出する溶岩は,ハワイプルームの化学組成について本質的な情報を与えると考えられます.盾状期溶岩の組成の時間変化はプルーム中心の地球化学的構造を知る上で重要で,ハワイ最大の火山であるマウナロア火山では陸上?浅海で採取された盾状期溶岩の同位体組成の時間変化がよく研究されています.一方で,フアラライ火山の陸上部は後盾状期の溶岩に覆われているため,盾状期溶岩のデータがほとんど得られていませんでした.そこで,フアラライ火山海底から採取された盾状期溶岩,マウナロア火山でもより古い情報を持つ深海底溶岩について,Hf, Pb, Nd, Sr同位体組成分析をおこないました.本研究により初めて明らかになったフアラライ火山盾状期の同位体組成変動は,隣接するマウナロア火山の長期変動とは異なることがわかりました(図3).この変動は,単純な同心円状のプルームモデルでは説明できず,プルーム内が垂直方向もしくは水平方向により不均質である可能性を示唆しています.

 

(図3.フアラライ火山,マウナロア火山の同位体組成の時間変化(マウナロア溶岩についてはMarske et al. (2007)より一部修正))